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大阪地方裁判所 昭和34年(レ)140号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と判断〕本件は、係争家屋の所有権(第二次的に共有権)を被保全権利として主張する債権者(被控訴人)と右家屋の居住者である債務者(控訴人)との間でなされた係争家屋を執行吏の保管に付し債権者の使用を許容する仮処分判決に対する控訴判決である。判決の認定によると、係争家屋は元大南芳松の所有であつたが、同人の死亡により同人の妻大南コトに三分の二、姉和田ノブ、妹大南スヱ、同林崎ムメに各九分の一の割合で相続されたところ、被控訴人は右和田ノブの相続分を同人の死亡により承継したものにすぎないから本件係争家屋の九分の一の持分権しかなかつた。被控訴人は右共有権に基き共有物の保存行為として係争家屋の占有者である控訴人に対し右家屋の明渡請求権の存在を主張するのに対し、控訴人は右家屋に対する占有権原として次のように主張した。すなわち、係争家屋の三分の二の持分権者である前記大南コトは、昭和三三年一二月に死亡したところ、同人の兄弟はいずれも改正民法施行前に死亡していたため、その直系卑属が大南コトの遣産を代襲相続し、代襲相続人の一人であり、その余の代襲相続人から係争家屋の管理を一任されていた平田ミちゑと契約して、控訴人は係争家屋の一時使用のための賃借権(遣産分割協議が成立するまでの暫定的な賃借権)を取得したものであると。この主張に対し被控訴人は、(一)前記コトの兄弟はすべて戦前に死亡しており、当時の民法によるとその死亡当時同人らにはコトを相続する適格がなく、相続適格を有しない者の卑属がコトを代襲相続することはありえない。(二)共有家屋の賃貸は共有物の保存行為とはいえないから、平田みちゑが単独で賃貸しても他の共有者に対して効力を生じない。本件係争家屋の賃貸借は期限を定めない通常の賃貸借であるから、共有持分権者の利益に重大な影響のある処分行為に該当し、共有者全員の同意を必要とする。(三)かりに本件係争家屋の賃貸行為が民法二五二条にいう管理に関する事項であるとしても、右事項は共有者全員による協議を経た後持分価格の過半数をもつて決すべきである。持分権者の一部の者が集り、他の者を除外して独善的に管理に関する事項を決議するのは、その方法に重大なかしがあり、右決議によつて平田は本件係争家屋賃貸の権限を取得しない、と主張した。右被控訴人の主張に対する裁判所の判断(うち(二)の主張については、控訴人の賃借権を一時使用のものと認定したうえでのもの)は、次のとおりである。

(一)「戦後相続法が改正(昭和二二年法二二二号)施行された後に相続が開始した場合において代襲相続の有無を定めるに当つては被代襲者の死亡の時期が右民法の改正の前か否かにより結論を異にするものと解すべきではなく、現行法を適用するのが正当である。けだし被代襲者の適格は、相続開始のときに死亡その他相続権喪失の原因たる事実がなく、生存していたならば当然相続しえたであろうものであれば十分であり、被代襲者の右失権当時と相続開始当時との法律に変更があつて、失権当時の法律によれば被代襲者が相続人たりえない場合であつても相続開始当時の法律に従えば相続人たる地位を有していたものと認められる以上、被代襲者の適格に欠けるところはなく、このことは相続権の有無は相続開始当時に適用される法律によつて確定されるべきものであること、ならびに代襲相続人はその相続順位において被代襲者のそれと同一であるにしても、法律によつて直接被相続人を相続するのであつて、被代襲者の権利を承継するものでないことから考えても容易に首肯できるところであるからである。かりに被代襲適格たる相続人たるべきものの判定は被代襲者とされるものの死亡ないし失権当時の法律で決すべきものであるとしても、戦後の改正民法はその附則第四条によつて同法施行前に生じた事項にも適用されただ旧民法及び応急措置法によつて生じた効力を妨げないものとされているのであつて、被代襲者の適格の如きは専ら相続開始前における相続人の地位に関する問題であり、元来相続人の地位は相続開始に至るまでの事情によつて変更し、確定不動のものではないのであるから、これを以て旧民法ないしは応急措置法によつて生じた効力にあたるものとなし難いのは勿論であつて、当然改正民法が遡及適用される結果、旧民法当時相続人となりえなかつた兄弟姉妹も、改正民法施行後の相続において、これを相続人たるべきものとして取扱い、被代襲適格を認めるのに何の支障もないのであつて、この点に関する被相続人の右主張は採用の限りではない。」

(二)「民法第二五一条は、共有物の変更につき、共有持分権者全員の同意を要することとし、同第二五二条は、その管理に関する事項は持分の価格の過半数で決し得るのを原則としつつ、例外として保存行為は各持分権者が単独でなし得る旨定めている。ところで、相続財産として相続人の共有に属する家屋を賃貸することは、それが家屋の保存に役立つ面を有するによい、他面その利用を図り賃借人と共有者との間に特殊の継続的関係を発生させるものであるから、これを目的物の現状を維持するため共有者の各人が全員のため単独でなし得る保存行為と解することはとうていできない。(中略)通常の期限の定めのない建物賃貸借には借家法の適用があり、貸主は正当の事由がない限り何時までも解約を制限されるのであるから、処分権がなく管理権のみを有する者のした賃貸借契約によつて、以上のとおりの効果を発生させることは、民法第六〇二条に照らし、とうてい認められないといわなければならない。そしてこれを共有物の賃貸についてみると右借家法上の解約制限の効果を生ずる賃貸借は各共有持分権者について重大な利害関係を有することからみて民法第二五一条にいわゆる共有物の変更と同視すべき処分というべく、このような賃貸借の締結は持分の価格の過半数を以て決しえず、共有持分権者全員の同意を要するものというべきである。しかしながら、本件控訴人と平田ミちゑ間の契約は、前述認定のとおり遣産分割により終了する暫定的、一時的なもので、借家法第八条の適用を受け控訴人が借家法上認められた解約制限による保護を受けるべき性質のものではないのであるから、共有物の変更と同視しうる処分とは解されず、通常の管理に属する事項というべきであり、このような賃貸借契約の締結については、持分の価格の過半数により決しうるものといつてよい。

(三)「本件で争われている右平田と控訴人との賃貸借契約については、その成立前に本件家屋の共有者全員が集合して協議をすることなく、共有持分権者の持分の過半数に足らない者が平田ミちゑに本件家屋等の管理を一任する旨を決し、本件貸借が成立した後、右持分権者の他の者が平田への管理委任を事後承諾し、結局これによつて平田に管理を委任する者が総持分権者の過半数を超えるに至つたことは前記認定のとおりである。ところで、一般に多数集団(必ずしも法律上の社団に限らない)内部の意思決定の方法としては、株主総会、社員総会、会社の取締役会の如く、法が構成員の集会による議決を要求し、そのための手続を定めている場合を除けば、意思決定に当り必ずしも集会を要しない場合を認めてよいものと考えられる。ことに、共有物の管理に関する事項の協議決定(共有者全員につき効果を生ずる行為をするための持分の多数による内部的意思決定)の方法手続については、事前に集会を要する明文の規定がないのみならず、実質的に考えても、民法における共有持分権者は、相互に対立する私的利益を離れた共同の目的に乏しいから共有物の管理方法を決するに当つても、各自の利益とするところを主張することになりがちであり、集会して協議をしても各持分権者の異る私的利益相互間の妥協と多数意思の確認に終ることが多く、したがつて法の解釈上共有物管理のための協議には必ずしも集会(その重要なねらいは意見の交換により見解を修正し合つて客観的に正しい合目的な結論に達する可能性を担保するにあるといえる)を必要としないというべきである。このように解しても、多数意思に反する持分権者は協議により定められた管理行為により各持分権者に帰属する法的効果以外特に責任を負うこともないし、管理は分割に至るまでの暫定的なもので、内容も限定されているから、管理方法に不服のある持分権者にとり回復し難い不利益を生ずることもなく、どうしても当該管理方法に不服な持分権者は何時でも共有物の分割を請求して、共有団体から脱し得るのである。これらの点からみて、協議につき集会を要求しなくても各持分権者により格別の不都合はないのみならず、もし、これと異り、多数関係人が遠隔地にいることも多いと考えられる相続財産の管理方法決定につき、一々持分権者の集会を要するとすれば、有効な管理行為が事実上不能となることも多く予想されるところである。以上のように考えてくると、相続による共有財産の管理方法を決するにつき、持分権者の集会協議を必要とするのは正当ではなく、書面の交換による協議はもとより一定の管理案につき、いわゆる持廻りの方法によつて多数意思を決することも許されるものというべきである。そして、もとより右持ち廻りによる決議の方法も本来は共有物管理のための対外行為の事前にしかも各共有持分権者全員に対してなされるべきものではあるが、そうだからといつて、たまたま管理のための対外的行為がなされた後において、共有持分権者が集会又は持廻り等の方法により事後の協議をして、右管理行為を承認したような場合これを無効とすべき格別の理由はなく、かえつて対外行為における相手方の利益及び共有持分権者の利益のいずれを考えても、事後的協議による承認は、これを有効として事前の協議決議があつた場合と同様に扱うのが至当というべきである。また持分権者の一部の者に対して、協議を経なかつた場合も、結果的に持分の価格の過半数により管理方法が決議されている以上、共有持分権者等の内部関係において、正当な手続をとることを避けた者に対する損害賠償等の責任問題を生ずることのあるのは格別、管理のための対外行為の効果には何等影響がないといつてよいのである。

また、共有物の管理方法を決するに当つては、その内容を一々具体化することなく、一部の持分権者や第三者に包括的に処分に亘らない程度の管理行為を委ねることも可能であり、右管理を委ねられたものが、管理のための対外行為をするに当り、共有者らの為の代理形式をとるか又は自己の名において行為するか等如何なる行為形式によるべきかにつき、これを管理を委ねられた者の自由に一任することも共有持分価格の過半数によつて決しうるといつてよい。

以上のような見地に立つて、本件を考えると、前記認定のとおり訴外平田ミちゑは同人を含め亡大南芳松の有していた財産の共有持分中四十二分の十七を有する者の意思により、その財産管理につき、内容、方式を限定することなく一切を委任され、その管理権の範囲内において、自己の名を以て本件家屋を控訴人に賃借し、その後別に共有持分権者中共有持分計四十二分の十一を有する者から、前同様の管理委任を受けるに至り、総計分台の二の持分権を有する者の意思に基き、本件家屋を控訴人に使用させていることになるのであるから、控訴人の賃借権は、同人の本件家屋賃借に賛成していない少数持分権者に対しても効力を有するものというべきである。」

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